【インタビュー】
「音の力を信じて、今を鳴らす」──ミュージシャン・プロデューサー 守時タツミさんが語る、音楽と人生の軌跡
「一音一音に魂を込めて、音を届けたいと思うんです。想像力が、もしかしたら世界を変えるかもしれないから」
バンド活動から始まり、就職と別れを経て、再び音楽の道へ。
「おとえほん」や「MOTTAINAI SOUND」など、音を通じて社会に温もりを届けるプロジェクトに取り組むミュージシャン 守時タツミさんに、これまでの歩みと音楽への想いについて伺いました。
■ 音楽との出会い、そして“東京”を選んだ理由
──音楽に惹かれるようになったのは、いつ頃のことでしたか?
「中学1年生の頃ですね。当時は洋楽を中心に聴いていましたが、自分で演奏するという発想はありませんでした。高校2年生のときにバンドを組んだことで、音楽が“自分の人生の一部”に変わっていった気がします。」
──東京へ出てこられたきっかけも、音楽だったと伺いました。
「そうなんです。当時一緒にバンドをやっていた仲間の中に、後に“ザ・ブルーハーツ”のボーカルとなる甲本ヒロトがいまして。彼とともに東京にでてきてオリジナルをやり始めて パンクロックのような音楽をやっていました。」
■ バブルガム・ブラザーズとの出会い、バックバンドの現場へ
──最初に関わられたお仕事について教えてください。
「いろんなアーティストと仕事したいなと思い、ヒロトたちと抜けた後バブルガム・ブラザーズのバックバンドの仕事が決まったんです。“ヒロトと別れてからの初仕事”というタイミングでもありました。運命的なものを感じましたね。」
──周囲の反応はいかがでしたか?
「正直なところ、周囲からは反対の声も多かったんです。“そんな不安定な道に進んで大丈夫なの?”と。ですが、自分の中では“今やらなければ、きっと一生後悔する”という確信がありました。」
■ 音楽を一度離れ、そして再び戻るまで
──一度音楽から離れたご経験もあるとか。
「はい。当時付き合っていた方に“ミュージシャンとは結婚できない”と告げられてしまい、音楽を辞めて会社勤めを始めました。でも、数年後にその方と別れてしまって……。すると、“自分は本当にやりたいことをしているのか?”と自問自答し、会社に伝えて辞めることにしました。」
──再び音楽の世界へ戻られる決意をされたきっかけは何だったのでしょうか?
「貸しレコード店でのアルバイト中に、同僚の女の子が“このバンド好きなんです”と手渡してくれたレコードが、なんとブルーハーツだったんです。自分が一緒に音を出していた仲間が、こんなにも多くの人に影響を与えている。そのことに衝撃を受けて、“自分も、もう一度本気で音楽をやり直したい”と心を決めました。」
■ 努力の根底にあったコンプレックスと、音に込める思い
──長年にわたって音楽を続けてこられた中で、大切にされてきたことは何ですか?
「実は、自分にはずっと“劣等感”のようなものがありました。音楽大学を出ているわけでもなく、楽譜をすらすら読めるわけでもない。でもその分、“誰よりも努力するしかない”という気持ちが常にありました。コンサートでは一音一音を丁寧に届けること、聴いてくださる一人ひとりの心に響く音を出すことを、何よりも大切にしています。」
──“時間”についても強い想いをお持ちだと伺いました。
「はい。私にとって、時間は何よりも“もったいない”ものなんです。無駄にしていい時間なんて一瞬たりともない。だからこそ、今この瞬間にできることを、全力でやるようにしています。」
■ 「おとえほん」──音だけで心を育てる挑戦
──「おとえほん」の発想はどのように生まれたのでしょう?
「2008年に秋葉原で発生した無差別殺傷事件が大きなきっかけでした。あの事件を知ったとき、“もし加害者の彼が、子どもの頃にもっと心が温まる体験をしていたら、何かが違っていたかもしれない”と感じたんです。」
──視覚情報を排した“絵のない絵本”というコンセプトが印象的です。
「子どもたちが自由に想像力を働かせられるように、朗読と音楽だけで構成しています。音に包まれながら、自分なりの情景を思い描いてほしい。そんな願いを込めて作りました。」
■ 「MOTTAINAI SOUND」──音楽と社会課題の接点
──「MOTTAINAI SOUND」は、どのようにして生まれたのでしょうか?
「ある商社の方に“あなたの活動って、もったいないことばかりだね”と言われたことがきっかけでした。最初は“成立しないよ”と、多くの方に言われました。でも、逆にその言葉が“絶対に形にしてやる”という原動力になったんです。」
■ NHKホールの舞台、そして夢の続き
──NHKホールでのコンサートも実現されたとか。
「2025年春に、NHKホールで“MOTTAINAI SOUND”のコンサートを開催させていただきました。実は2000年に、紅白歌合戦のバックバンドとして同じステージに立っていたのですが、その時から“いつか主役としてこの舞台に戻ってきたい”という夢を持っていました。それが25年越しで叶ったんです。」
──これからの展望について教えてください。
「地道に、一つひとつの音楽を丁寧に紡いでいくことが目標です。そしてもう一つ、大きな夢があります。2050年の紅白歌合戦に、“MOTTAINAI SOUND”で出演すること。 それを目指して、日々音を磨いています。」
■ 最後に──どんな音楽家ですか?という問いへの一言
──最後に、あえてお聞きします。“ご自身はどんな音楽家だと思われますか?”
「……普通の音楽家ですよ。」
静かに、そう語る守時さんの表情には、謙虚さと確かな自負がにじんでいました。
肩肘を張らず、けれど誰よりも真摯に音と向き合うその姿勢が、多くの人の心に“音の力”を届け続けています。